🔀 Crossover
図書館学 × プロダクトマネジメント

図書館学とプロダクトマネジメント|分類・廃棄・目録が教えること

司書は毎年、何千冊もの本を「除籍」する。スペースは有限で、知識は更新され、利用されない資料は腐っていく。プロダクトロードマップの管理に、図書館学の論理がここまで重なることを、私たちはほとんど意識してこなかった。

#図書館学 #プロダクトマネジメント #分類 #情報管理 #ロードマップ

除籍、という仕事

図書館の司書には「除籍」という業務がある。

収蔵する本を捨てることだ。

感傷的に聞こえるかもしれないが、実際には非常に論理的な作業だ。スペースには物理的な上限がある。古い情報は誤りを含むようになる。利用実績のない資料は棚を占有し続け、本当に必要な資料の収蔵を妨げる。図書館学の用語でいえば「資料の鮮度管理」——除籍は蔵書を守るための行為であり、捨てることでコレクションの質を上げる逆説的な操作だ。

テキサス州立図書館がジョセフ・シーガルの手で1976年に策定した除籍基準「MUSTIE」は、今も実務で参照される。

Misleading(誤解を招く)、Ugly(物理的に劣化)、Superseded(新版に置換された)、Trivial(専門性が低い)、Irrelevant(コレクション方針から外れた)、Elsewhere available(他で容易に入手可能)——6基準のいずれかに該当したとき、その資料は棚から外される。

これを読んで、プロダクトマネジメントの文脈に置き直したくなった人は、少なくない気がする。

分類の哲学

図書館学のもう一つの核心は「分類(classification)」だ。

1876年、メルヴィル・デューイが発表した十進分類法(DDC)は、知識の全体を10の大区分に分け、それぞれをさらに10に分割し、小数点以下で無限に細分化できる体系を作った。000番が「情報・図書館学・コンピュータ科学」、100番が「哲学・心理学」、500番が「自然科学」——この構造は今日も全世界の図書館で使われており、ウィキペディアの分類体系にも間接的に影響を与えている。

しかし分類には、根本的な問いが埋め込まれている。

「ある本は、1つの場所にしか置けない。」

進化の本は、自然科学(500番台)に置くのか、哲学(100番台)に置くのか、歴史(900番台)に置くのか。ダーウィンの『種の起源』を「正しく」分類できると思っている司書は、正直なところあまりいない。分類とは対象を把握する行為であると同時に、その対象の本質を1つの視点に還元する暴力でもある。

にもかかわらず、分類しなければ本は見つからない。

ロードマップは目録である

プロダクトマネジメントの文脈でこれを考えてみる。

ロードマップとは何か、と問われたとき、多くの人は「今後の機能開発計画」と答える。しかしより正確には、「何を優先し、何を後回しにし、何をやらないと決めたかの記録」だ。ロードマップは計画書である前に、意思決定の目録(カタログ)だ。

図書館の「目録(catalog)」も同じ構造を持っている。目録は資料の所在を示すだけでなく、「この図書館が何を持ち、何を持たないか」の総体的な意思を反映する。収蔵方針、選書基準、コレクションの思想——それが目録を通じて読み取れる。

Amazonの創業期、ジェフ・ベゾスは「地球上で最も品揃えが豊富な書店」を目指すと言った。しかし彼が本当にやったことは、何を収蔵するかではなく、何を除外しないかの基準設計だった。すべてを扱う、という方針は聞こえがいいが、それは実際には「選択しないことを選択する」という非常に意識的な判断だ。

「使われない資料」の問題

図書館学における除籍基準の一つに「利用統計」がある。

過去5年間、一度も貸し出されなかった資料は、除籍の候補になる。利用されないことは、その資料の価値が低いという直接の証拠ではない。希少資料が長期間借りられないことも多い。しかしスペースが有限である以上、利用実績はどこかで判断基準に入ってくる。

プロダクトにも同じ問いがある。

リリースした機能の何割が、実際にユーザーに使われているか。Pendo社が2019年に発表したレポートによれば、SaaSプロダクトの機能のうち、定期的に使われているものは全体の20%程度にとどまり、残りの80%は使われることがほとんどないと報告されている。

使われない機能はコードベースの複雑性を増やし、テストコストを上げ、新機能の開発を遅らせる。使われない蔵書が棚を圧迫するように、使われない機能はプロダクトの「可動域」を狭めていく。

この類似は比喩ではなく、構造的な同型性だ——と言い切りたくなるが、その感触が正しいかどうか、もう少し考え続けたい。

選書と「バックログ」

図書館には「選書(selection)」の手続きがある。

新しい本を購入するかどうかを判断するプロセスだ。司書は出版情報を読み、レビューを参照し、利用者のニーズを推測し、コレクション方針に照らして判断する。「今の蔵書との重複がないか」「この分野の収蔵水準と合致するか」「利用者の関心領域か」——これらを複合的に判断する。

プロダクトのバックログ管理と、構造が重なる。

バックログに積まれたアイテムは「購入候補の本」に相当する。優先度付けは選書だ。スプリントへの投入は購入決定であり、棚入れだ。そして定期的なバックログリファインメントは——除籍に他ならない。

Basecamp(現37signals)のシニア・ストラテジスト、ライアン・シンガーは著書『Shape Up』の中で、プロダクトの要求事項は「腐る」と書いた。6ヶ月前に重要だったバックログアイテムが、今も同じ優先度を持つとは限らない。環境が変わり、ユーザーのニーズが変わり、競合が変わる。腐った要求事項をバックログに積み続けることは、誤情報の含まれた本を棚に残し続けることと同じだ。

分類の恣意性と、それでも分類する理由

ここで少し立ち止まりたい。

図書館の分類が「恣意的」であることは、司書の世界では長く議論されてきた。デューイ十進分類法が作られた19世紀末のアメリカでは、宗教の9割以上がキリスト教に割かれ、その他の宗教が残りのスペースで扱われた。世界の知識体系を「西洋・白人男性の視点」から整理したという批判は、今なお有効だ。

分類は中立ではない。

プロダクトロードマップも同じだ。何を優先するかは、その組織が何を「価値」と定義するかを反映する。顧客満足度を最優先する組織のロードマップと、技術的負債の解消を最優先する組織のロードマップは、同じ条件下でも異なる外観をもつ。どちらが「正しい」という問いに、一般的な答えはない。

それでも分類は必要だ。

分類の恣意性を知りながら分類する——これが図書館学の実践的な立場だ。完璧な分類体系を待っていては、本は一冊も棚に入らない。不完全であることを自覚しながら、暫定的に構造を与え、定期的に見直す。この態度はそのまま、不確実な環境でロードマップを管理するプロダクトマネージャーの構えにも通じる。

「参考資料室」という発想

国立国会図書館などの大規模図書館には「参考資料室(reference section)」がある。

貸出できない資料を集めた場所だ。辞典、法律書、地図、統計資料——これらは「借りていく」のではなく、「その場で参照する」ために存在する。利用の形式が違うため、通常の貸出資料とは別の扱いを受ける。

プロダクトにも「参考資料」に相当する機能がある。

日常的に使われるわけではないが、あるとき突然必要になる機能。ユーザーが毎日触れるわけではないが、なければ致命的な機能。こうした「参照型機能」を、頻繁に使われる「貸出型機能」と同列に扱うと、評価が歪む。利用統計だけで機能の価値を判断することへの限界が、ここに現れる。


問いを残しておく。

あなたのプロダクトの「蔵書方針」は明文化されているか。何を集め、何を集めないかの基準が、チームで共有されているか。そしてバックログの「除籍」は、定期的に行われているか。

図書館の司書が資料を捨てるとき、それは諦めではなく、コレクションを守るための意志的な行為だ。プロダクトの機能を削ぐことも、後退ではなく、プロダクトの本質を守る設計になりうる。

そこで問いが残る。あなたの組織には、「除籍」を決断できる権限を持った人間がいるか。そしてその決断を、誰が悲しまずに——あるいは悲しみながらも——実行できるか。


考えるための問い

  • あなたのプロダクトのバックログに、最後に「除籍」した(削除した)のはいつか。その判断を誰が行い、どんな基準で決めたか
  • 使われていない機能を残し続けることのコストを、チームは可視化して議論したことがあるか
  • 「分類の恣意性」を知りながらも分類する——この態度を、ロードマップ優先度付けに適用するとどうなるか

クロスオーバーのつながり


参考文献

  • Segal, J. P. (1976). CREW: A Weeding Manual for Modern Libraries. Texas State Library and Archives Commission — MUSTIE基準を含む除籍の実務手順書。テキサス州立図書館が初版を刊行
  • Dewey, M. (1876). A Classification and Subject Index for Cataloguing and Arranging the Books and Pamphlets of a Library. — 十進分類法の原典。知識の体系的分類を初めて数値体系で実現した
  • Singer, C. A. (2008). Fundamentals of Managing Reference Collections. ALA Editions — 参考資料管理の実務と選書・除籍の判断基準
  • Perri, M. (2018). Escaping the Build Trap: How Effective Product Management Creates Real Value. O’Reilly — 機能の「ビルドトラップ」を論じ、不要な機能の積み上げがプロダクトを壊す構造を分析
Share

🔀 同じカテゴリの記事

🔀 他のカテゴリの記事