国会は十四日未明、超党派提出の「 国民大脳保全法案 」を賛成三百二十六、反対九十四で可決した。法案は二〇八〇年度から 五歳以上の全住民 に対し、年二回の シナプススキャン とリアルタイム差分更新を義務づける。取得したニューロン接続データは 量子暗号 で分割し、国営メモリクラウド「 NeuroVault 」に保管される仕組みだ。政府は総事業費 九・六兆円 を全額国費で賄う方針を示し、所得税増ではなくカーボン税の余剰配分で捻出すると説明している。
背景には急速な高齢化と 医療費の爆発 がある。厚労省統計では二〇七五年時点で 認知症患者は国内二千四百万人 に達し、医療・介護コストは GDPの一六% を占めた。脳データの定期バックアップと ナノチップ再書き込み治療 を組み合わせれば、発症前に記憶の欠落を補完できるとの試算が出たことで、抜本策として法制化が急浮上した。
賛成派は「 人間のソフトウェアを守る公共事業 」と歓迎する。新設される 国家脳情報庁 の初代長官に就任予定の星野杏樹氏は「二〇四五年に 認知症ゼロ を達成すれば、年間二十兆円の社会コストを圧縮できる」と胸を張る。一方、日本弁護士連合会は「本人同意が形骸化し、 デジタルアイデンティティの所有権 が不明確」として憲法訴訟を視野に入れると表明。ハッカー団体”ZeroMind”も「 国家が精神のルートディレクトリを掌握する 」として抗議サイバー攻撃を予告した。
政府はプライバシー保護措置として、データ復元には本人と第三者機関の二重鍵が必要な「 ブレインマルチシグ 」方式を導入すると説明。万一の漏洩時も一人分の鍵からは五%以下の記憶しか再構築できないと主張するが、技術的裏付けの詳細は未公表だ。
海外では既に韓国とノルウェーが任意登録制度を開始し、三年で認知症予備軍が二七%減少したとの報告がある。EUは「データ主権」を理由に域内クラウド保存を条件とするなど各国対応は割れており、日本の全面義務化は国際社会の議論に火をつけそうだ。
自らの脳を〈 公共財 〉として差し出す覚悟を、社会は受け入れられるのか。 意識のデジタル複製と尊厳の境界線 が、法の名の下に書き換えられようとしている。



