モンティ・ホール問題:確率の直観を裏切る選択の思考実験

3つのドアの前に立つ。1つを選ぶ。司会者が別のドアを開ける。あなたは選択を変えるべきか——答えは「変えるべき」だが、なぜそれが直観に反するのか。

#確率論 #認知バイアス #意思決定 #ゲーム理論 #思考実験

3つのドアがある。

1つの後ろには新車。残り2つには山羊。あなたはドア1を選んだ。すると司会者のモンティが、残り2つのドアのうち山羊がいる方、ドア3を開けて見せた。

「選択を変えますか?」

この問いに、あなたはどう答えるか。

直観が囁くこと

多くの人は「どちらも50%だから変えても変えなくても同じ」と答える。残り2つのドアのうち1つが開いた。ならば確率は1/2と1/2——これが直観の声だ。

あるいは「もう選んだのだから変えない」という心理的一貫性が働く。変えることで、もし外れたら「変えなければよかった」という後悔が生まれる。この非対称な後悔への恐れが、現状維持を促す。

しかし、答えは違う。

ドアを変えた方が、確率は2倍になる。

なぜ変えるべきなのか

最初にドア1を選んだ時点で、正解の確率は1/3だ。裏を返せば、残り2つのドアのどちらかに正解がある確率は2/3だった。

モンティが重要な行動をとる——彼は山羊のいるドアを、わざわざ選んで開ける。モンティはどのドアに何があるかを知っており、意図的に山羊を見せる。これは情報を開示しているのではなく、確率の構造を更新させている。

最初の2/3の確率は、モンティが開けなかったドア2に「収束」する。ドア1はまだ1/3。ドア2は2/3になった。

これがベイズ推定の直観的な感触だ。新しい情報(モンティが開けたドア)によって、確率の分布が変わる。

1990年、世界を揺るがした問い

この問題が広く知られるようになったのは、1990年のことだ。コラムニストのマリリン・ボス・サバントが「パレード」誌に掲載した問いが、歴史的な論争を巻き起こした。

彼女は「ドアを変えるべき」と答えた。翌週、数千通もの反論の手紙が届いた。その多くは数学の博士号を持つ人々からで、「あなたは間違っている」と断言していた。

ピール・ドゥボア、ロバート・サックス——著名な統計学者や数学者たちが誤りを指摘するほど、この問題の直観的な難しさは根深い。

しかし、コンピューターシミュレーションが答えを出した。1万回のゲームを試みると、ドアを変えた場合は約66%、変えない場合は約33%の確率で正解した。数学は正しかった。

なぜ直観は裏切られるのか

この問題が示す認知のバグは、いくつかの層を持っている。

一つは「均等確率の罠」——二者択一に見えると、脳は自動的に50%と処理する。ドアが2つ残った時点で、選択の文脈を忘れてしまう。

もう一つは「モンティの役割の無視」——司会者がランダムにドアを開けるのではなく、意図的に山羊のドアを選んでいるという事実が、直観から脱落する。もし司会者がランダムにドアを開けたなら(そして偶然山羊が現れたなら)、確率は本当に50%になる。意図性の有無が確率を変える。

三つ目は「自己の選択への執着」——一度選んだことへの固執が、合理的な更新を妨げる。これはコミットメント・バイアスとも呼ばれる。

思考実験の外側へ

モンティ・ホール問題は、ゲーム番組の枠を大きく超える。

投資家がポートフォリオを組み替える瞬間。医師が診断を修正する場面。経営者が方針転換を躊躇う会議室——これらすべてに、同じ構造がある。新しい情報が入ったとき、人は自分の最初の判断を守ろうとする。

しかし確率は、感情と独立して動く。

「変えること」への心理的コストと「変えない」ことの合理的コスト——この二つは、逆転していることが多い。

問いは問い続ける

面白いのは、この問題に「正解がある」点だ。多くの思考実験は答えを出さない。モンティ・ホール問題には、明確な数学的解答がある。

それでも、なお人々は直観を信じる。答えを知っていても、変えることを恐れる。

確率の正しさと、行動の正しさの間には、深い溝がある。知ることと、動くことは、別の問題なのかもしれない。


考えるための問い

  • あなたが「変えない」を選ぶとき、そこに働いている力は何か
  • 新しい情報が入ったとき、あなたの意見はどれくらい変わるか
  • 「意図的に情報を開示する他者」の存在を、あなたはどこまで意識しているか
  • 「正解がある問い」と「正解がない問い」で、あなたの考え方はどう変わるか
  • 確率と感情が対立するとき、どちらに従うべきか——そもそも「従う」は正しい表現か

参考文献

  • Selvin, S. (1975). “A Problem in Probability”. The American Statistician, 29(1), 67
  • vos Savant, M. (1990). “Ask Marilyn” column. Parade Magazine, September 9
  • Gilovich, T., Medvec, V.H. & Chen, S. (1995). “Commission, Omission, and Dissonance Reduction: Coping with Regret in the ‘Monty Hall’ Problem”. Personality and Social Psychology Bulletin, 21(2), 182-190
  • Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux(カーネマン『ファスト&スロー』)
  • Tierney, J. (1991). “Behind Monty Hall’s Doors: Puzzle, Debate and Answer?”. The New York Times, July 21
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