2037年9月1日、「 非テック事業者プラットフォーム規制法(通称:非テックPF法) 」が施行された。
施行日に政府が発動した第一弾措置は、12社への「 垂直統合分離命令 」だ。対象となった12社のうち、純粋なITプラットフォーム企業はゼロ。すべて、かつては「伝統産業」と呼ばれた業種から急成長したプラットフォーム企業だった。
宅配流通3社、電力小売2社、医療予約プラットフォーム1社、交通予約統合2社、住居サービス統合2社、農業流通プラットフォーム2社——これらの企業は、自社のプラットフォームを通じて一つの業界の70%以上のトランザクションを掌握していた。
公正取引委員会の委員長・中村真理子氏は記者会見でこう述べた。「 デジタルとアナログの区別はもはや意味をなさない。インフラを支配するものは、すべて規制の対象だ 」。
問題の起点は、2031〜34年にかけての「 第二次プラットフォーム化 」だ。
第一次プラットフォーム化(2010年代)は、GAFAに代表されるデジタルネイティブ企業によって主導された。しかし第二次は違った。既存の流通業者・製造業者・交通事業者が「デジタルトランスフォーメーション」の名のもとにプラットフォーム化し、自社の業種ごと取り込んでいった。
象徴的な事例が、物流大手 三輝ロジスティクス だ。2029年に配達ネットワークをプラットフォーム化した同社は、2年以内に中小運送会社3,200社をAPIで統合し、国内配送量の74%を支配するようになった。価格設定・配送優先順位・配送員への報酬設定がすべて三輝のアルゴリズムに委ねられた。
公正取引委員会が2035年に発表した「非デジタルセクターのプラットフォーム集中に関する報告書」は340ページに及ぶ詳細な実態調査だった。結論の一文が話題になった。「 これはデジタルの問題ではなく、権力の問題だ 」。
12社への分離命令の内容は、企業ごとに異なる。
三輝ロジスティクスに対しては、「プラットフォームサービス部門」と「輸送オペレーション部門」の会社分割が命じられた。自社の輸送リソースを優遇して競合他社を排除してきたことへの対処だ。農業流通大手の農産直市には、「データアクセスの強制開放」と「最恵国条項の禁止」が課された。農家のデータを囲い込み、農産物価格の決定権を事実上独占していたためだ。
「非テックPF法は、分離命令を出すだけでなく、 プラットフォームの設計そのものに介入する という意味で、従来の独占禁止法とは性格が異なる」と競争法の専門家・梶田義彦弁護士は解説する。「20世紀の独占規制は、独占を分割することで競争を回復させた。しかしプラットフォームは分割しただけでは競争が回復しない。データが一方に集中した状態で別の会社に分けても、データを持つ側が依然として優位を持つ」。
規制の対象となった企業側から、意外な反応も出ている。
農産直市の創業者・富田圭吾氏は公聴会で「私たちがプラットフォーム化したのは、個別農家と個別小売が交渉力の非対称に苦しんでいたからだ。中間業者を排除し、農家に直接的な価格決定権を与えようとした。その過程で私たちが強くなりすぎたとするなら、その解決策は私たちを弱くすることではなく、 農家が私たちなしで交渉力を持てる制度設計 のはずだ」と主張した。
この発言は、法律の支持者の間でも議論を呼んだ。
経済学者の浅野和広・一橋大学教授は「分離命令は症状の治療であり、原因の治療ではない」と論じる。「非テックPF法が問いかけているのは、プラットフォームがインフラになったとき、それを私有していいのかという問いだ。電力会社は独占を許されているが、代わりに規制される。プラットフォームも同じ道をたどるかもしれない。あるいは、 プラットフォームは公共財として運営されるべきだという結論 にいずれ至るかもしれない」。
法律は施行されたが、問いはまだ答えを待っている。
12社の法廷闘争は始まったばかりだ。
参考文献
- Lina Khan, “Amazon’s Antitrust Paradox” Yale Law Journal 126 (2017) — プラットフォームと独占規制の新しい枠組みを提示した論文
- Jean Tirole, Economics for the Common Good (2017) — プラットフォーム経済と規制の設計をめぐるノーベル経済学賞受賞者の分析
- Tim Wu, The Curse of Bigness (2018) — 独占の弊害と競争政策の復活についての論考