バブルラップの誕生——壁紙にも温室にもなれなかった緩衝材

1957年、エンジニアのアルフレッド・フィールディングとマーク・チャバネスは、気泡入りの壁紙を作ろうとした。しかし壁紙としても温室の断熱材としても売れなかった。数年後、コンピューターを梱包する必要に迫られたIBMが、この「失敗素材」の真の用途を見つけた。

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アルフレッド・フィールディング / マーク・チャバネス 1957年

「テクスチャーウォール」の夢

1957年、ニュージャージー州ホーソーンのガレージ。エンジニアの アルフレッド・フィールディングマーク・チャバネス は、二枚のシャワーカーテンを熱で接着する実験をしていた。

彼らのアイデアはシンプルだった。二枚のプラスチックシートを接着する際に意図的に空気を閉じ込め、立体的なテクスチャーを持つ気泡入りの壁紙を作る。1950年代はアメリカで住宅建設ブームが続いており、個性的なインテリア素材への需要があると踏んでいた。

実験は成功した。二枚のポリエチレンシートの間に無数の小さな空気泡が閉じ込められた、プニプニとした独特の感触の素材ができあがった。

しかし壁紙としては売れなかった

気泡のある壁紙は奇妙に見え、消費者には受け入れられなかった。当時のインテリアトレンドはむしろ滑らかで均質な表面を好んでいた。

温室の断熱材への転用

最初の失敗を受けて、フィールディングとチャバネスは別の用途を探した。気泡が空気を含んでいるなら、断熱性能があるはずだ。温室の外壁に使えば、暖房コストを節約できるのではないか。

彼らは1960年に シールド・エア・コーポレーション(Sealed Air Corporation) を設立し、温室の断熱材としてこの素材を売り込み始めた。

しかし、これも売れなかった。農家や園芸家たちは既存のガラス温室に慣れており、プラスチックシートへの転換には消極的だった。コストメリットを訴えても、なかなか普及しなかった。

IBMが変えた「用途の地図」

失敗が続く中、1961年、ターニングポイントが訪れた。

IBMが新型コンピューター IBM 1401 を発売した。1401は当時のビジネス向けコンピューターとして非常に人気があり、需要は全米から殺到した。しかし問題があった——精密機械であるコンピューターを、長距離輸送中の振動や衝撃からどう守るか

当時の梱包材は、クラフト紙を丸めたものや新聞紙が主流だった。これでは精密部品を保護するには不十分だった。

IBMの担当者がシールド・エアの素材に目をとめた。気泡が衝撃を吸収する——コンピューターの梱包材として最適ではないか。

IBMはこの素材を大量に発注した。これが バブルラップ(Bubble Wrap) の「本当の誕生」だった。「壁紙」でも「断熱材」でもなく、「緩衝材」というまったく異なる用途が、この素材の真の価値を引き出した。

フィールディングとチャバネスは「Bubble Wrap」を商標登録し(シールド・エア社の登録商標)、以後この素材はコンピューターを皮切りに精密機器・陶磁器・ガラス製品・書籍と、衝撃から守る必要のあるあらゆる荷物の梱包に使われるようになった。

プチプチ——もう一つの価値

バブルラップには、もう一つ「誰も設計しなかった価値」がある。

潰すと気持ちいい。

「プチプチ」という音と感触は、多くの人に独特の満足感を与える。1999年にはウェブサイト「Virtual Bubblewrap」が公開され、バーチャルでバブルラップを潰す体験が提供されて人気を博した(現在も類似サイトが存在する)。2001年には「バブルラップ記念日(Bubble Wrap Appreciation Day)」が制定され、1月最終月曜日とされている。

心理学的研究では、バブルラップを潰す行為がストレス軽減効果を持つ可能性が示されている——もちろん科学的には軽微な効果だが、「プチプチ」がオフィスで受け入れられる理由は確かにある。

梱包材の副次的機能として「触覚的快楽」がある素材は、バブルラップ以外にはほとんど思い当たらない。

シールド・エアの現在

シールド・エア・コーポレーションは現在もバブルラップの最大手メーカーの一つで、$6.5 billion(約6500億円)規模の企業に成長している(2020年代の年間売上高)。梱包材市場では多様な製品を展開しており、「Bubble Wrap」ブランドは梱包材の代名詞となっている。

アルフレッド・フィールディングは2001年に亡くなった。1999年には共同発明者として 全米発明家殿堂(National Inventors Hall of Fame) に殿堂入りを果たした。


この問いと向き合うとき

壁紙として生まれ、梱包材として大成した——バブルラップの物語は「失敗」という言葉の意味を問い直させてくれる。

この物語が教えてくれること

バブルラップの物語は「用途は発明者が決めるのではない」という真実を教えてくれる。

フィールディングとチャバネスは壁紙を作った。温室の断熱材を売ろうとした。しかし最終的にその素材の真の用途を「発見」したのは、コンピューターを送りたかったIBMだった。

発明者は素材や機能を作る。しかしその素材の「物語」を完成させるのは、意外な場所にいるユーザーだ。

「まだ用途が見つかっていない発見」を粘り強く持ち続け、世界に見せ続ける——そのオープンさが、「予想外の顧客」との出会いを可能にする。ポストイットのスペンサー・シルバーと同じく、フィールディングもまた「答えを先に持ち、問題を後から見つけた」発明家だった。

思考を刺激する問い

  • あなたが作ったもの、あるいは準備しているものの「真の用途」は、自分が想定している用途とは違う場所にあるかもしれない。どうすればその「意外なIBM」に出会えるだろうか?
  • 失敗した売り込みを「別の顧客に見せる」という選択肢を、あなたはきちんと追いかけているだろうか?
  • 「プチプチを潰す喜び」のように、自分の製品やサービスの中に「設計していなかった価値」が宿っていないだろうか?

発見がつながる先


参考文献

  • Chavannes, M. & Fielding, A. (1960). U.S. Patent 3,142,599. “Cushioning and Protective Material”
  • Meyers, W. (2011). Bubble Wrap: The Pop Culture Reference. Random House
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